たなかみさきのロマンポルノ季候

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2022.02.28

イラストレーターたなかみさきが
日活ロマンポルノの映画の中から
おすすめの作品を
四季折々の感性で描く
月刊イラストコラム。

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2022.02.28

㊙色情めす市場


本作が ベネチア国際映画祭で上映されるとの事で、このタイミングで拝見しました。
まずはこの映画が撮られた70年代、大阪の西成区をすごく丁寧にじっくり撮ってあってそれだけでも見所が沢山ありました。
その時代に実際に生きていた人々と、登場人物達の境界線が薄く、物語とドキュメンタリー両方の側面を持った作品でした。予告編でも印象だったのですが、登場人物にきちんとした名前が無い事が多く、「おかーちゃん」「おっちゃん」「おにーさん」などと呼んでいたのも仲間のような親しみと共に他人のようで。その地区の距離感をリアルに感じました。
壮絶で絶望的な環境でありながら、「なんか逆らいたい」と言う主人公の誰にも屈しない気高さがあり、度々つけまつげを付けた目が宝石みたいにキラリと光るのが印象的でした。
指名手配犯の写真、空き地、幽霊のようにユラユラと浮くワンピース、ダッチワイフ、煙草の線香。それぞれのモチーフに目に映る物事を一度疑いたくなるような沢山のレイヤーがあるように感じる名作でした。

この連載は月1更新でお届けします。
次回2022年3 月31 日(木)掲載予定


本日の作品

㊙色情めす市場

㊙色情めす市場

「うちな、なんや、逆らいたいんや」 釜ヶ崎の街、芹明香の肢体がモノクロームに映える! 名匠・田中登監督、人間のエロスに切り込む傑作!

あらすじ ロマンポルノの名匠・田中登が、大阪・釜ヶ崎を舞台に、 ともに娼婦 として生きる母と娘を通して、生と性に切り込んだ孤高の傑作!

19歳のトメは、組織に入らず、ドヤ街の近くで客を引くフリーの娼婦。店やヤクザから組織に入るよう言われても、頑として従わない強気だが、知的障害のある弟には限りなくやさしい。同じ娼婦である母との諍い、指名手配犯にそっくりの男や駆け落ちしてきたカップルとの出会いと別れ、そして弟の出奔を通して、トメが決意した覚悟とは…。ドヤ街で隠し撮りしたドキュメンタリーのような生々しい映像、トメを演じる芹明香の圧倒的な存在感が、見る者すべてに鮮烈な印象を焼きつける映画史に残る作品。

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