「あの頃のロマンポルノ」 by キネマ旬報

 

第7回『人妻集団暴行致死事件』②

2021年に、日活ロマンポルノは生誕50年の節目の年をむかえました。それを記念して、「キネマ旬報」に過去掲載された記事の中から、ロマンポルノの魅力を様々な角度から掘り下げていく特別企画「あの頃のロマンポルノ」。「キネマ旬報WEB」とロマンポルノ公式サイトにて同時連載していきます。(これまでの掲載記事はコチラから)

今回は、ロマンポルノ作品として1978年第52回「キネマ旬報ベスト・テン」の日本映画第9位に選ばれた『人妻集団暴行致死事件』をピックアップ。19788月下旬号より、寺脇研氏による【田中登監督の『人妻集団暴行致死事件』】を転載いたします。

1919年に創刊され100年以上の歴史を持つ「キネマ旬報」の過去の記事を読める貴重なこの機会をお見逃しなく!

■若者たちの〈甘え〉とそれを許す中年の男女
 いかにも直裁な題名だ。登場人物たちが紹介され情況が説明された段階で、すでにして物語の結末は明らかになってしまう。そのた『人妻集団暴行致死事件』へ向けて、映画は小気味よいほどの調子で進んでいく。次に何が起きるか、という期待を観る側に持たせる方法ではなく、あらかじめ示した終結点へ力強く運んでくれるのだ。

 そもそも事件の発生自体、蓋然性からのものというよりは必然的に起きるべくして起きたといえる。中年男は、ついていなかった、と述懐するけれど、決してそうした偶然の所産ではない。彼が若者たちの〈甘え〉を許したこと、そればかりか仲間意識を持って同化しようとしたことが悲劇的結末を生むのは予測に難くあるまい。三人の若者たちを取りまく環境、社会、そして何より〈甘え〉に満ちた軟弱な性格、それと反比例して強烈な性欲は、犯罪を惹起せずにはおかなくなる。
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若い心の中には、誰しもある種の獣性が宿っている。自ら馴致できるかどうかは紙一重だ。たとえば同じ日活・白鳥信一監督『課外授業 熟れはじめ』は、高校生の性と生活を楽天的に明るく描いた好篇だったが、そこに現われている健全な青春を送る少年たちにしても、一歩まちがえれば歪んだ欲望の深淵に落ちるに違いない。だから、三人組も、中年男の言うように「そんなに悪い奴じゃない」のであり、〈甘え〉や獣性は若さの切り離せない附属物なのだ。

 男ばかりではない。性犯罪の上では被害者の立場になりがちな若い女たちの方にも、〈甘え〉と獣性はある。三人が放縦な交渉をする相手になるスケ番あがりの娘たち。さらに靴工場で働く少女ですら、挑む若者をいったんは退けながら、独り暮らしの寂しさを露呈してしまい、男を招き入れる。組みしかれて大仰に悔んでみせても、意識下に働いた欲望を否定することはできない。

 こうした若者の〈甘え〉と獣性を、正面から取り上げるのでなしに、中年の男女とからませて相対化して扱っている。田中登監督の前作『女教師』ではオトナたちと少年たちの対比はさほど鮮明ではなかった。それがこの作品では、くっきりと対照され、中年夫婦を鏡にして若さの実像が写し出される。この構造のありかたは、同じものを法や裁きという鏡に写し出そうとしてみせた野村芳太郎監督『事件』を想起させる。

 しかし、この田中登監督会心の一作の方が、はるかに鋭くきびしく若さの陰の部分を頚上に載せている。法だの裁きだの、いわば血の通っていない無機質のものと相対させても、〈甘え〉や獣性の醜さは浮き彫りにされてこない。若者たちと同じく血の通った、まさに集団暴行されれば死んでしまうような生身の人間たちの生きざまと対峙させて、はじめて正しく認識させ得るのだ。まして、中年夫婦は、昔同じように〈甘え〉と獣性たっぷりの青春を送ってきている存在だ。二十年後の彼ら若者たちが二重写しになっているといえる。『野良猫ロック・マシンアニマル』など旧日活青春映画で不良少女を好演していた黒沢のり子が中年の女であるだけに、なおさらその感が強い。

 毒を喪くした男の異様なまでの嘆きと哀しみ。死に致らしめた若者たちへの怒りよりも、自身への悔恨の思いが先立っている。心臓の病を知らせることさえ容易にできなかった妻、気取ることのできなかった自分。自責の念に追われて若者たちへの憤怒は没却される。〈甘え〉にまみれた彼らは過ぎた日の自分でもあるわけなのだから。

 若さは強い。中年男女の生活をふみにじっても、平気で先へと進み続ける。うちの一人は、靴工場の少女と同棲し、結語の部分では笑いさざめきあう楽しい暮らしぶりを見せるほどだ。醜い面なんかふっとばして若さを謳歌する。だが、彼らもまた死んでいった中年夫婦のように、〈若さ〉からしっぺ返しを食う日が、いつか来る

文・寺脇研 「キネマ旬報」19788月下旬号より転載

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監督: 田中登 脚本:佐治乾
価格:3,800円+消費税
発売:日活株式会社 販売元:株式会社ハピネット・メディアマーケティング


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