●『○秘色情めす市場』脚本は『実録阿部定』でも組まれた、いどあきおですが....

田中:いどあきおさんとの最初の仕事がこの作品なんですよ。この後『阿部定』、『屋根裏の散歩者』、『責める』、『好色5人女』、と5本続くんですね。5年で5本やったんですが、『阿部定』のときに最初にあがった台本が100ページあったんですね。それを2人で切っていって最終的に54ページになったんですよ。 そうなると、例えばシナリオにあるト書きだとかがああいったものをどんどん削っていって、1つのセリフにしても、1つの点(、)にしても輪(。)にしてもね、もう取れるところまで取っちゃおうと。取れるからってもちろん内容が減るわけじゃなくって、取ることによって残った部分のもつイマージがね、限りなくひろがってくれる。それから参加するスタッフがその奥に僕らが考えていた以上のところを想像してくれないと、レベルに達しない。
  だからスタッフもスタッフなりに凄く勉強する余地が出てくるんです。 だからシナリオは特に映画のシナリオは、説明的なものを出来るだけカットして、その映画のエキスみたいなものだけを残していくってことでいどさんとの作業は続いたものですから、まあ具体的な例で言えば『阿部定』が100ページから54ページまでになっちゃったということなんです。こんな薄い台本だったんです。 だけどこんなに薄いんだけど、限りなく重いんです。



● 『○秘色情めす市場』はもともと別のタイトルだったそうですが

田中:いどさんの記述でも、『赤い哺乳類』うんぬんのタイトルが出てますけど、『○秘色情めす市場』なんてよってたかって作ったタイトルでね、舌噛みそうでしょ。 これはタイトルに関しては、当時会社のプロデューサーだけじゃどうしようもない部分があってね、重役とか営業とか色んな人が入っては、あれをいれようこれもいれようってやったあげくのまったく寄せ集めのタイトルですよね。
  いどあきおさんが最初に書いたものとね、僕は始めから『受胎告知』でいきたいという気持ちでいまして、『○秘色情めす市場』って舌噛みそうでしょ。だけどその下に僕はいつも括弧して『(仮題)受胎告知』って入れてきたんです。だからどっかで封切るチャンスあったらこの題に戻したいくらいでねえ。 まあ商売にしてもねえ、映画のタイトルはちょっとつらいところあってね、監督の一存ではなかなか押し切れないところがありましたんでね、しょうがないんだけど今だに自分の中では『受胎告知』というタイトルでいきたいと思ってますよ。

 



 ● この作品はパートカラー(部分的にカラーになる。ピンク等で濡れ場になるとカラーになるという使い方をされた)ですが、ロマンポルノは始めからカラーで始まっています。これは予算のためだったのでしょうか。

田中:そうじゃないです。あくまで演出意図にもとづくものです。ここまではモノクロの世界、ここからはカラーの世界というように意図しています。だからパートカラーというより、もっとシークエンスが長いですよね、カラーの部分が。だからパートカラーではないんです。シークエンスカラーっていいますか、3分の1くらいはカラーですからね。 そのカラーもどちらかといえばモノクロに近いような、富士の高感度フィルムでね、淡い色合いでとてもいい色合いのフィルムでモノクロに近いようなフィルムの処理になっていて、また最後はモノクロに戻っていくという、これは予算じゃなくて最初から意図をもってやっています。
  途中カラーのフィルムが無くなりましてね、チーフ助監督が真っ青になって飛んできて、 「監督、フィルムが無くなりました」って言うんだね。 例の大阪駅近くのどぶ池商店街の所にサネオがぶらさがってぷらんぷらんしてる所、空中でぶらさがって揺れている所でフィルムが無くなっちゃったんです。空中吊らしていつまでもほっとくわけにいかないし、チーフ助監督の高橋君が走り回ってね、富士カラーをね「監督1本見つかりました」って1000フィート持ってきたんです。それがえらい高いフィルムだったんです。感度の高い素晴らしくいいやつ。それが間に合って、吊り下がってるサネオに光があたってねその周りを芹明香がゆっくりと回るシーンだったんです。 芹明香の髪に逆光があたってね、それがソフトで実にいい感じが逆に出たんです。フィルムが無くなったのがえらく幸いしたんですねえ。 カラーになるところは確か太陽のベリークロースアップから入っているはずです。ドラマの中でああいう入り方からしかない所からカラーを使いたいっていうのが僕の意識にあったんです。だからパートカラーって考えではない。あくまでも演出意図です。

 

 

 



● ドヤ街としていまでも[健在]の西成地区にロケをしていますが、その時のエピソードを。

田中:僕はロケハンで7回、1人で行ったロケハン含めて10回くらい行ってますけど、まともに宿へ泊まれたことはないですね。要するに帽子をかぶってねジャンパー着て、ドヤ街のあの格子窓の入った部屋へ泊まってね、150円だか50円だかの所に泊まってね、夜ずっと過ごす。そうすると枕に垢がびっしりと、ピカピカに光ってついていたりする。窓には格子窓が、住人が逃げないようにはまってるんです。いきなり廊下の隅でレンガ積み上げて飯盒ご飯炊きだす奴がいるしね、酔っ払って蒲団に火つけて窓から投げる奴がいたりそんなのはもう日常茶飯事で、ロケハン行くたびに出会うわけです。で、この街はなんだ、と。まあ知識はあったけど、実際に中へ入るとも全然違うわけだよとにかく。 撮影の許可を取るために台本を手に西成警察署の保安課に行ったんです。監督どの範囲で撮りたいんだって言われて、シナリオ見せたら警察が絶対に入っちゃ行けないって場所が全部書いてあるんですよホンには。保安課長がニシナリの地図に赤い線をくくった、その中でホンは全部書かれてる。この中で撮影したら君達逮捕するかもしれないよって。 2、3年前に釜ヶ崎暴動が起こってて警察がナーバスになるのも分かるんだけどね、トビタの遊郭なんかに機動隊の装具がびっしり密かに隠してあるのが見えたるするんです。とにかく大変なのは分かってるけど、この写真はこの空間で撮影しないと成り立たないんだって思ってましたから、もうゲリラのつもりでねすべてダメだって言う所で撮ろうと、ここで撮るしかないんだってそういう気持ちでいました。 それくらいの覚悟でやりました。
  撮影所に戻ってきたら撮影所長の黒澤(満)さん(現東映セントラル社長)が、あそこで撮影できるのか、大丈夫かって撮影所食堂前の芝生で訊かれましたよ。 メインロケハンで行った時に、地下道からメインスタッフが上がっていくと、いきなり目の前でビールビンで殴り合いやってるんです。 キャメラマンは安藤庄平さんで、今村昌平さんの『人類学入門』で僕は助監督やっててプロデューサーの結城も助監督やってて、安藤さんは撮影のチーフやってたんです。 『人類学』で大阪のあいりん地区のはずれでしたけど撮影やってたんですね。だからあいりん地区じゃなかったけど大阪の土地勘はわりとあった。 でもいざ、あいりん地区に入るとなったらね、もう警察はダメだし許可は出ない、だいたい三角公園なんか女優があんなとこ素手で歩いたら持ってかれそうだしね。 最初のあいりん地区の職安センターのシャッターが上がるシーンがありますね。 僕が路上生活者になって始めからひっくり返って居るんですよ。衣装を全部着て酒飲みながら道でひっくり返ってる。それで足伸ばして、「あーっあ、うわー」なんて風に(ヨーイ、ハイの)サイン出してね、それを受けて隠れてる安藤さんが出ていってウワッーっとあのシャッターが上がるカットを一気に撮った。そんな風にやりましたね。 それからシャッターが上がった直後の中のカット、あそこなんかもキャメラなんかかまえてらんないんです。かまえたらよってたかって壊されちゃう。 キャメラをね、安藤さんが首から下げてボディを覆って隠して、勘でもって歩いて撮ってるんですよ。彼らはね、音に対して凄く敏感なんです。音ね。 あそこに棲んでいる人は、常に音に敏感になるくらい、それくらい厳しいんですね。 まあ、ちょっと常識を超えた撮影でしたね。全てが。

 

 

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